よく「なぜ書くのか」と訊かれます。なぜ私は、何も書かれていない紙の前に、何時間も何日も座り続けるという奇妙な職業に人生を捧げているのか？　と。ガブリエル・ガルシア・マルケスなら、そう質問されると笑いながら「もっと愛されるために書いている」と答えたことでしょう。でも、偉大なるガボ（訳注　マルケスの愛称）はふざけているのだから、彼の言うことを信じてはいけません。現実には、愛されるために書くことはできません。人は真実を伝えるために書くのです。あまりにも生々しくて厳しい真実は、人を失望させることもあります。ペンを持って机に向かえば、もう嘘をつくことも、恐れることもありません。何を書いてもいいし、頭のなかのよくない考えを露呈したり、無礼になったり、横柄や不親切になってもいいのです。そう、私は愛されることや理解されることを諦めた日から、本当に書きはじめたのだと思います。私が本を書くのは、他人からの愛や、人々の好意を得るためではありません。疑問を投げかけ、石を積み上げ、沈黙を破りたいのです。
 

　SNSを辞めたとき、送られてきたヘイトメッセージのせいなのかと尋ねてくる人がいましたが、私は「いいえ、その逆よ」と答えました。愛があったからこそ、手放したのです。そこにはハートマークや「いいね！」や賞賛の言葉がありました。私は好かれたいとは思いませんが、それは私の人生や作家としての仕事と完全に矛盾しています。私は同意を求めたり、合意を得たり、みんなを喜ばせたり、一言多いことや悪評に怯えながら生きたくないのです。ヴァージニア・ウルフが家庭の天使を殺したと言うように、私もインスタグラムに存在していた「レイラ」を、殺さなければなりませんでした。愛されないことを恐れていた、親切で賢い「レイラ」を消し去る必要があったのです。それに、抵抗しなければならないのです。自由な女性になって、自分の運命をまっとうするには、「常に人を喜ばせ、和解を求める親切な人であれ」、「失望はひどい失敗だと思え」とけしかけてくる天使と戦わなければなりません。そう、いつも愛されているわけではないけれど、私たちは自分自身であり、自由なのです。私は大勢の人を喜ばせたいとは思っていないので、距離を取るようにしています。大勢の人ほど怖いものはありません。

　愛されるために、というのは別の話です。もちろん、何かを書くことには愛が関係しています。私が書くのは、愛した人たちのことを語り、彼らを生き返らせ、自分の痕跡を蘇らせたいから。それに、あらゆる存在は謎––––上陸はできても完全に知ることのできない島––––だと信じているからです。愛することは、そのように認識し、相手の秘密の美しさと深遠さに魅了されることです。もちろん、私だって一目惚れや情熱を信じていますが、特に関心はありません。その代わりに私は化学者として愛を見ていて、ふたりの間に愛が引き起こすとてつもない反応に依然として驚いているのです。愛は忍耐です。金でも銀でもないけれど、あらゆるもの––––例えば、小さな秘密や裏切り、言葉にされないこと、それに日々の生活に––––に抵抗する金属の塊です。時間が経って金属が摩滅すると、最後には崇高で不滅の塊だけが残ります。愛は沈黙です。他者を変えたり、自分のものにしたり、秘密を全部暴いたりしようとはしません。私たちはみんな、人知れず死んでいきますが、もし私たちが何かを愛し、一瞬でも何かに心を捧げたのなら、その人生には価値があったということになる。死んだときに私のために証言してくれるのは、私の作品ではありません。私を愛してくれた、数少ない人たちです。彼らはうつむいたまま、何も言わないかもしれませんが、その目には金属の輝きが宿っていることでしょう。

雨宮天（あまみや・そら）

8月28日生まれ。東京都出身。  

2011年の第2回ミュージックレインスーパー声優オーディションに合格。

2014年『アカメが斬る！』アカメでアニメ初主演。以降も『東京喰種』霧嶋董香役、『七つの大罪』エリザベス役、『この素晴らしい世界に祝福を！』アクアなど、数々のメインキャラクター、ヒロインなどを演じている。 アーティストとしては2014年に『Skyreach』でデビューし、様々なアニメの主題歌を担当。近年は作詞作曲にも積極的に挑戦している。また、ユニット・TrySailとしても精力的に活動中。自身のYouTubeチャンネル「雨宮天のてくてく天ちゃん」では様々なチャレンジに挑戦するなどマルチに活躍。